キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞療法

[適切な治療を、患者のもとへ]
CAR-T細胞療法
CAR-T細胞療法」とは、遺伝子操作が加えられたT細胞による新しい治療法です。

<治療方法>
① 患者からリンパ球を採取する。
② 採取したリンパ球にキメラ抗原受容体遺伝子を導入し、CAR-T細胞を作る。
③ 作成したCAR-T細胞を無菌室で培養して増やす。
④ 増やしたCAR-T細胞を点滴で患者の体内へ戻す。

<治療法開発の背景>

リンパ球中のT細胞は、がん細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃する細胞性免疫を担っており、がん細胞やウイルスに感染した細胞の表面に提示される特異的な抗原を認識して攻撃します。しかし、がん細胞はその抗原を隠してT細胞に認識されにくくしたり、T細胞の増殖を弱めたりして、患者自身のT細胞の攻撃から逃れてしまいます。そこで、がん細胞表面上に多く発現する抗原を認識して増殖できる力をT細胞に与えれば、がん細胞を再び攻撃することが可能となります。

<キメラ抗原受容体遺伝子を導入し、がん細胞へのアンテナを作る>
キメラ抗原受容体(CAR)とは、抗体の抗原認識部位とT細胞受容体の細胞内シグナル伝達部位をつないだ構造を持つ人工的なタンパクです。患者から採血して得たT細胞にCAR遺伝子を導入してCAR-T細胞を作ると、T細胞上にCARが発現して、がん抗原を認識するアンテナの役割をしてくれます。がん細胞の表面に多く発現している抗原を認識するCAR-T細胞をつくれば、これまで普通のT細胞が認識できなかったがん細胞を確実に攻撃できるようになります。

<患者の負担が少なく、高い寛解率を誇る>
アメリカにおいては、小児がんのなかで最大の死亡原因となっている急性リンパ性白血病の患者を対象に治験が行われ、治療抵抗例において80−90%という驚くべき高い寛解率が報告されました。また、多くは患者自身のT細胞を使用するため、造血幹細胞移植と比較して、前治療として用いる大量の抗がん剤は不要で、移植片対宿主病(Graft versus host decease:GVHD)といった同種反応による副作用はほとんどなく、患者の負担が少ないのも特長です。

[新たな製造法を開発し、治療費の軽減を目指します。]
<アメリカのCAR-T細胞治療費は承認されれば5,000万円以上とも…>
CAR-T細胞療法は、米国をはじめわが国でも製薬会社による治験がすでに始まっていますが、製薬会社が設定する治療費は5,000万円以上になるとも言われており、高額な治療費が、必要な患者さんへ適切な治療を届ける障壁になってしまうのではないかと懸念されています。名古屋大学小児科では、信州大学小児科と協力して、CAR-T細胞の製造法の工夫により、より安価なCAR-T細胞の開発に成功しました。すでに特許を出願し、2016年度中には患者への投与開始を予定しています。治療費用は100-200万円程度を見込んでおり、経済的な問題を克服し、最新の治療を必要な患者へ届けられるシステムの構築を目指しています。

[中国・北京児童医院と連携したCAR-T細胞療法を実現しています。]
<国内治療開始に先駆けて>
中国ではすでに、Chang教授をはじめとする医療チームが開発したCAR-T
細胞療法を臨床に取り入れており、年間200名以上の治療実績と高い寛解率を誇ってい
ます。名大病院では、今年の2月にChang教授とCAR-T細胞療法についての共同研究の契約を取り交わしました。名大病院でCAR-T療法の実施が可能となるまでは、CAR-T療法が必要な患者についてはChang教授の紹介で北京児童病院においてCAR-T療法を受けることが可能となりました。すでに、今年の3月と7月にふたりの患者が、北京児童病院でCAR-T細胞による治療をうけています。ふたりとも副作用なく治療を終えて元気に名古屋へ帰ってきました。名古屋小児がん基金は、ふたりの治療費の一部を補助しています。

① 北京児童病院
② 小島先生とChang教授
③ 北京児童病院にて CAR-T細胞療法を受けた2時間後。患者の負担が少なく、治療直後から笑顔が見られる